六兆年と一夜物語(オリジナル) No.3 帰ってからのこと。
- 桜華
- 2017年8月27日
- 読了時間: 2分
「誰も知らないおとぎ話は夕焼けの中に吸い込まれて消えてった・・・か」
昔_それほど遠くもない昔、おばあさまが歌ってくれた歌。
私にぴったりだからと何度も歌ってくれた歌。
もう一人、ぴったりな人をみつけました。
走り出した私は我を忘れたように走り続ける。
止まってしまうと、飲み込まれてしまいそうだから。
あの瞳を見ていると、おかしくなってしまいそうだった。
真っ黒で潤んだ瞳は私と同じと語っているようだった。
仲間を見つけた、そう直感で思ったのに嫌な感じがするのは何故か。
私にはまだわからなかった。
家に帰ると、また玄関が狭くなっていた。
大量のごみ。
仕事をしなくなった母親が外に出ているのは見たことが無い。
今までは仕事に一所懸命で、ほとんど家にいなかったのに。
少なくともおばあさまがいたころは違った。
おばあさまがいなくなって、私をどう育てていいかわからなくなったという。
シングルマザーなのだ。
「ただいま。たまには掃除をしたら?私が友達を連れてこれないよ。」
返事はない。
分かっている。
私は靴を脱がずにそのまま上がる。
リビングダイニングキッチンなんて洒落た表現をする気はない。
ここはごみの山。
もともとは居間。
ちゃんとベッドルームもあるのに、母親はこの部屋で生活している。
料理なんてしないのに。
「どうせあんたには連れてくる友達もいないんでしょ。だったらそんな意味はないわ…」
こんな見た目だからか、母親の風当たりも強い。
「相変わらずあんたはおばあちゃんに似てるね。私の遺伝子はどこへ行ったんだか。」
これは口癖だから気にしない。
「どうせならさっさと【あっち】に行けばいいのに。私にはあんたを育てるのは重荷過ぎる。私なんかに前例のないことをさせないでよね。」
Comments